Outline概要文
東京の高校生4人が、3泊4日で「観光地・函館」の奥にある課題と可能性に出会う
東京都にある新渡戸文化高等学校の「スタディツアー」プログラムの一環として、4名の高校生を函館に迎え、3泊4日の地域探究型スタディツアーを企画・運営しました。
ツアーのテーマは、函館をはじめとする地方都市が抱える「若者の流出と人口減少」。地元の若者と同じ10代でありながら、函館を外から見る生徒たちだからこそ見つけられる、街の魅力や可能性の再発見をゴールに設定しました。
西部地区の街歩き、観光・教育・産業・環境・コミュニティなどの分野で活動する地域プレイヤーへのヒアリング、学生団体ISARIBIwithとの交流を通じて、きらびやかな観光地としての函館だけでなく、その背景にある地域課題と、課題に本気で向き合う人々の営みに触れる時間を設計しました。
最終日には、ツアー中にインスタントカメラで撮影した「心が動いた瞬間」を一冊にまとめ、フォトブック『碧の街』を制作。高校生が一方的に地域を学ぶのではなく、4人の新鮮な視点を地域にも返していく、双方向のスタディツアーとなりました。
LAMPSは、ツアーコンセプトと行程の設計、地域プレイヤーとの連携調整、当日のファシリテーション、振り返り、成果物制作までを一貫して担当しました。
Vision実現したい状態
「観光する旅」から、地域と自分を見る目が変わる旅へ
高校生向けのスタディツアーは、名所を巡り、非日常的な体験を重ねるだけでは、帰宅後に「楽しかった思い出」として閉じてしまうことがあります。
特に函館のように観光地としてのイメージが強い街では、美しい街並みや食文化の背景にある、歴史的建造物の空き家問題、海洋環境の変化、若者の流出といった課題や、それらに向き合いながら暮らす人々の姿は、短い滞在のなかでは見えにくいものです。
本ツアーで目指したのは、函館の魅力を高校生に「教える」ことではありません。観光地のオモテとウラ、地域の課題と可能性、土地に積み重なった歴史と現在を行き来しながら、生徒自身が街を観察し、人の言葉を受け取り、自分なりの意味を見つけていくこと。そのプロセスを通じて、地域を見る解像度そのものを高めていくことを目指しました。
そして、函館で得た視点が、帰京後に「東京にも、知らずに通り過ぎている物語があるかもしれない」と、自分たちが暮らす街を見直す視点へとつながっていく。旅先への理解と、自分の日常への問いが同時に生まれるスタディツアーを設計しました。
Processプロセスデザイン
01 10代の「外からの視点」を軸に、ツアーコンセプトを設計
ツアーのゴールを、観光名所を巡ることではなく、「10代の外からの視点による函館の魅力と可能性の再発見」と定義しました。
若者流出や人口減少といった地域課題を、講義だけで理解するのではなく、街を歩き、人と出会い、自分の感覚と言葉で捉えていく3泊4日に設計。「人」「課題」「対話」「表現」の4つを、行程全体の柱としました。
02 西部地区を歩き、観光地の「オモテ」と「ウラ」に出会う
歴史と文化が色濃く残り、観光客と地域住民の暮らしが交わる西部地区を、自分たちの足で歩きました。
美しい街並みや北海道らしい食文化といった「函館のオモテ」に触れる一方で、歴史的建造物の空き家問題や、地球温暖化に伴う海洋環境の変化などの「函館のウラ」にも目を向けました。街の魅力と課題を別々に捉えるのではなく、同じ風景のなかに共存しているものとして感じてもらう時間となりました。
03 地域プレイヤーの「生の言葉」から、街を読み解く
観光、教育、産業、環境、コミュニティづくりなど、さまざまな分野で函館と向き合う地域プレイヤーへのヒアリングを実施しました。
「なぜ函館で暮らしているのか」「なぜ今の活動をしているのか」「函館にどのような可能性を感じているのか」。インターネットや観光パンフレットだけでは拾うことのできない、生身の言葉に触れることで、生徒たちは函館を「訪れる場所」ではなく、「人が選び、悩み、つくり続けている街」として捉え始めました。

04 年齢の近い大学生と、地域で生きる選択肢を語る
函館市内の4大学1高専の学生約70名で構成され、「函館の原動力になる」ことをビジョンに活動する学生団体ISARIBIwithとの交流会を実施しました。
活動紹介に加え、手巻き寿司パーティーや函館名物の「イカ踊り講座」など、生徒たちが自然体で交流できるプログラムを企画。学業と地域活動を両立させる、年齢の近い大学生の姿に触れながら、進学や将来の選択について等身大の言葉で語り合いました。

05 「心が動いた瞬間」を、インスタントカメラで記録
ツアー初日、生徒一人ひとりにインスタントカメラを1台ずつ配布し、「函館で過ごすなかで、心が動いた瞬間にシャッターを切ってください」とだけ伝えました。
撮影した写真をその場で確認できず、枚数にも限りがあるからこそ、生徒たちは何を残すのかを意識しながら街を見つめます。写真を撮ることを目的にするのではなく、自分の感情が動いた瞬間に気づき、それを記録するための観察装置としてインスタントカメラを活用しました。
06 写真と言葉を編み、フォトブック『碧の街』を制作
最終日、撮影した写真を現像し、ツアー中の記憶や感情を振り返りながら、一冊のフォトブックにまとめました。生徒たちがつけたタイトルは、『碧の街』。
函館の海や山の青さだけでなく、地域のために本気で活動する大人たちが、年齢にかかわらず青春の真ん中を生きているように感じられたことが、その名前に込められています。体験を写真と言葉に変え、地域へ返す成果物をつくることで、3泊4日の学びを一過性の記憶で終わらせない設計としました。

Harvest収穫
「また来たい」と「東京にも何かあるかも」が、同時に生まれた
ツアーを通じて、生徒たちのなかから「観光地」というフィルターが少しずつ外れていきました。何も知らなければ通り過ぎてしまうベンチや海、古い建物にも、空き家問題やイカの不漁などに向き合ってきた人々の物語がある。函館の歴史は、過去のものとして保存されているのではなく、今を生きる人たちによって、現在進行形で積み重ねられている。
そうした気づきは、「函館をもっと知りたい」「また来たい」という思いだけでなく、「東京にも、まだ気づいていない物語があるかもしれない」という、自分たちの日常を見つめ直す問いへとつながりました。
高校生4人の視点から得られた、函館の魅力
フォトブック『碧の街』に収められたのは、有名な観光スポットだけではありません。何気ない道、出会った人、食卓を囲んだ時間、海や山の色など、4人それぞれの視点で切り取られた函館の姿です。
函館で暮らす人にとって当たり前になっていた風景や人々の営みが、外から訪れた10代の視点によって、新しい価値や可能性を持つものとして映し直されました。スタディツアーは、高校生が地域から学ぶだけでなく、地域自身も高校生の視点から学び直す、双方向の時間となりました。

「街を歩く → 人に聞く → 自分で記録する → 地域に返す」という設計
この変化は、単に多くの場所を訪問したことで生まれたものではありません。街を歩いて違和感や疑問を見つけ、地域プレイヤーの言葉からその背景を知り、大学生との交流を通じて自分の未来に引き寄せ、最後に写真と言葉で意味づける。
インプットだけで終わらず、自分なりの表現として地域に返すところまでを一つの学習プロセスとして設計したことで、生徒たちのなかに「地域を見る目」が育っていきました。旅先の見方が変わることで、自分の街の見方も変わっていく。地域探究型スタディツアーの一つのモデルが、函館で生まれました。
Voice参加した生徒の声
参加した高校生
知らなければ通り過ぎてしまうようなベンチや海にも、古民家の空き家問題やイカの不漁などの課題に向き合ってきたストーリーがあることを知りました。函館で得た視点を持って、「東京にも何かあるかも」と、新しい発見を探しに行きたいと思いました。
参加した高校生
函館は、歴史的なものをただの歴史に留めるのではなく、今いる人たちが進行形で、さらに歴史を積み重ねている街なのだと感じました。出会った歴史、建物、人、街のすべてを好きになると同時に、ハッと気づかされることばかりでした。また来たい、もっと知りたいと思いました。