Outline概要文
三重県の海では、海藻を食べるアイゴの増加によって藻場が失われる「磯焼け」が進行しています。里山では、鹿による農作物被害が深刻化しています。どちらも地域の生態系や一次産業を揺るがす課題でありながら、捕獲されたアイゴや鹿肉は市場価値が低く、使い道のない「低利用食材」として扱われてきました。本事業は、この2つの地域課題を県内3校(鳥羽高校・志摩高校・名張高校)の高校生の探究教材とし、県内食関連事業者との協働を通じて、商品開発からプロモーションまでを一貫して実施したプロジェクトです。LAMPSは事業統括として、マッチング、現地学習、商品開発伴走、広報PR、BtoC・BtoBイベント運営までを担いました。
Vision実現したい状態
地域課題を「自分ごと」に、低利用食材を「地域資源」に
三重県で深刻化する2つの課題——磯焼けと鳥獣被害。どちらも解決には、課題の当事者だけでなく、次世代の若者が地域に関心を寄せ、関わり続ける構造が欠かせません。一方で、地域の高校生は、身近な海や里山のリアルに触れる機会が少ないまま卒業を迎えていく現状があります。
本事業では、「低利用食材の課題を解決する」ことと「高校生が県内で働く魅力を体感する」ことを、ひとつのプロジェクトに重ねました。課題そのものを教材として扱い、高校生が当事者である漁師・猟師・農事組合と協働する時間のなかで、「仕方なく消費する食材」を「美味しいから選ばれる地域資源」へと価値転換していく——そんな状態を目指しました。
Processプロセスデザイン
専門コーディネーター選定と、高校×食関連事業者のマッチング
事業のはじまりは、参加3校と県内食関連事業者3者のマッチングから。鳥羽高校×有限会社丸善水産、志摩高校×鳥羽磯部漁業協同組合、名張高校×農事組合法人ideca。それぞれが扱う食材と抱える課題感を丁寧にすり合わせ、生徒が深く関われる座組をつくっていきました。
事前講座とフィールドワークでの「課題との出会い」
植食性魚類コースでは、藻場と磯焼けのメカニズムを学ぶ事前講座の後、答志島で漁場クルーズと「アイゴを自らさばく体験」を実施。捕獲獣ジビエコースでは、鳥獣被害と狩猟のリアルを学び、名張猟友会やidecaの農地を訪ね、鹿肉の調理・試食実習を行いました。「おいしく活かすことが海を守る」「命をいただく重みと資源としての可能性」——課題への実感を、身体で受け取る時間となりました。
マーケティング講座と、各校4回以上の商品開発伴走
事務局が各校に4回以上出向き、対面での商品開発ミーティングを実施。ペルソナ設定や4P戦略を学ぶマーケティング講座と「商品開発シート」の活用を通じて、「誰に届けるか」から逆算した商品設計を伴走しました。名張高校では生徒の投票でカレーの配合を決めるなど、意思決定の主体が生徒に移っていく場面が随所に生まれました。
高校生主体の広報PR
広報PR勉強会を経て、発信方法は指定せず、生徒が自ら選択する形をとりました。手書きのラフから生まれた独自のポスター、ハンドチラシ、各校で運営するSNSアカウント、そしてPR TIMESの戦略配信。生徒が自分たちで選び取った表現が、三重テレビ、毎日新聞、水産経済新聞へと広がっていきました。
地域のマルシェでの実証——来場者との直接対話
11月の鳥羽マルシェ、12月の名張「バリフェス」にて、各校が試食会を実施。来賓の前での高校生プレゼン、自作チラシを手渡しての直接対話、完売する試食——来場者アンケートで共感度4.7〜4.8点という手応えとともに、「届けた」という原体験が生徒たちに残りました。
首都圏バイヤーとの商談——「困っているから食べて」から「美味しいから選ばれる」へ
2月、日本橋・三重テラスにてBtoB展示発表会を開催。食と流通の第一線で活躍するゲスト4名の講評と、首都圏バイヤー53名との自由商談を実施。「”困っているから食べて”ではなく、”美味しいから選びたい”という逆転の発想が今の時代に合っている」——プロの評価が、生徒たちの8ヶ月を社会からの手応えへと変換するものとなりました。
Harvest収穫
「地域資源化」と「自分ごと化」を、同時に実現
Visionで掲げた2つの状態は、事業の終わりに、結実した姿を見せていました。「仕方なく消費するもの」として扱われてきたアイゴと鹿肉は、首都圏バイヤーから「既存の高級魚と比較しても遜色ない」「未利用食材も価値観が変われば主役になれる」と評される地域資源へと転換していました。完成した4商品は新商品企画書として納品され、次年度以降の継続販売へと接続していきます。もうひとつの狙いだった「県内で働く魅力を伝える」ことも、生徒の変容という形で実現しました。最初は「自分から話しに行けるタイプでもない」と語っていた生徒が、首都圏バイヤーと自らの言葉で商品を語る姿に変わっていく。「社会がこうやって動いているんだとわかったとき、感動した」——生徒自身の言葉が、そのプロセスを物語っています。
「課題に出会う → 共創する → 社会に届ける」という設計の機能この変容は、偶然には起こりません。事前講座で課題を知り、現地でアイゴをさばき、商品開発を重ね、マルシェで来場者と直接対話し、首都圏バイヤーと商談する——学びが一過性で終わらないよう、課題への理解が深まるたびに次のアクションが用意される8ヶ月間の設計が、生徒を自然と次のステージへと運んでいきました。本事業で築かれた「地域・教育・産業」の連携は、翌年度以降も三重県に循環し続ける仕組みとして残り、生徒たちの中には「地域と関わりながら生きていく」という選択肢が、確かに根を下ろしました。
Voiceパートナーの声
高校生たちと開発したアイゴ商品は、ストーリーも含めて非常に大きな反響をいただいた。教育的な意義と、ビジネスラインとしての可能性の両立を実現できたことは、成果として非常に大きい。
自分は自分から話しに行けるタイプでもないし、分からないことや知らないことがあると不安になる。でも今回、LAMPSの皆さんと一緒にやる中で、大人でも年齢関係なく話せている自分にびっくりした。知らないことを知れるのが、楽しかった。ものの見方が変わった。社会がこうやって動いているんだとわかったとき、感動した。
日に日に変容しているのが目に見えてわかっていたが、このイベントを通して「自立感」「自走感」がとても高まった。イベント後の学内発表でも、妥協することなくベストを尽くそうという姿勢が随所に見られた。これはLAMPSのメンバーから教えてもらった姿勢だと思う。