ネクストハイスクール構想・三重県の拠点校は四日市工業高校|13.8億円の事業計画と採択後3年間を一次資料で解説

2026.07.16

2026年6月29日、文部科学省が「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」の改革先導拠点の採択結果を公表しました。全国38都道府県・75の先導校等が選ばれたなかで、三重県からの採択は三重県立四日市工業高等学校の1校のみです。上限額は13.8億円、事業期間は令和8年度から令和10年度までの3年間。三重県の発表は令和8年7月1日でした。

ただ、採択の一報からは「拠点校になると、これから何が起きるのか」までは見えてきません。それを知るための材料は、報道ではなく文部科学省の採択結果一覧(PDF)と、三重県が公表した事業計画書のほうにあります。以下、この2つを端から読んで整理してみました。

先に結論から。四日市工業高校のこの採択は、金額よりも構造に意味があると思います。13.8億円という額は、実は工業系の先導校22校のなかで21番目、下から2番目。それでも本校は、「半導体」と「専攻科」の両方を持つ全国唯一の先導校であり、事業計画名に「5年一貫」を掲げたのも全国でここだけです。以下、その中身を順に見ていきます。

※ 制度そのものの全体像(3,000億円規模の基金の仕組み、3つの視点、3類型の考え方)は、「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想とは?3,000億円規模の高校改革を世界一わかりやすく解説」にまとめてあります。ここから先は、三重県で実際に何が起きるのかに絞ります。

目次

結論:三重県の拠点校は四日市工業高校1校。13.8億円で「半導体×5年一貫」に挑む

まず、文部科学省の採択結果一覧に記載されている三重県の行を、そのまま表にします。出典は令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業 採択結果一覧(第1回から第3回申請分まで)(文部科学省、2026年6月29日公表)です。

項目 内容
先導校等名 三重県立四日市工業高等学校
学科等 全日制/工業学科7学科、ものづくり創造専攻科、定時制/工業学科2学科
事業計画名 四日市から世界へ!半導体で日本の未来を切り拓く5年一貫の工業教育拠点
上限額 13.8億円
類型 類型1(アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援)
学力向上・学習支援 大学や連携企業・民間教育機関等による学習支援の取組
協力校 桑名工業高等学校(工業)、四日市中央工業高等学校(工業)の2校
事業期間 令和8年度〜令和10年度の3年間(国の補助対象)
補助率 10分の10(全額国費)
県の担当 三重県教育委員会事務局 高校教育課 高校教育班
出典:文部科学省「採択結果一覧」および三重県「国の高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)を踏まえた改革先導拠点として県内1校が採択されました」(令和8年7月1日発表)より作成

「三重県はこれで終わり」ではないようです

目立たない場所ですが、三重県の発表ページの「備考」に、こんな一文が添えられています。

申請中の他の拠点校の取組は、今後の採択に向け検討・調整します。

三重県「改革先導拠点として県内1校が採択されました」令和8年7月1日

つまり三重県は他にも申請しており、今回の1校で打ち止めではありません。今回の採択は第1回から第3回申請分までの結果であり、県として追加採択を目指している状態です。県内の他校の先生にとっては、四日市工業高校の計画が「三重県の申請が通る型」を示す先行事例になります。

類型1「アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援」とは何か

N-E.X.T.ハイスクール構想の財政支援には3つの類型があり、四日市工業高校は類型1に採択されています。採択結果一覧の類型欄では「アド」「理数」「多様」の3列のうち、「アド」に丸が付いています。

アドバンスト・エッセンシャルワーカー(AEW)とは、地域の産業や社会を現場で支える、高度な専門性を持った人材を指します。専門高校の機能強化・高度化がテーマで、今回採択された75件のうち工業科が22学科と最多を占めました。文部科学省の「高等学校教育改革促進基金の創設」資料では、類型1の具体例として「地元企業との協定に基づく『半導体情報科』の開設」「専門学校との連携・協働による5年一貫カリキュラムの開発」が挙げられています。四日市工業高校の計画は、国が示したこのモデル例にほぼ正面から沿った設計になっています。

四日市工業高校の事業計画:3本の柱

ここからは、三重県が公表した事業計画書(PDF)の中身に入ります。県の報道発表よりも情報量が多く、報道発表には書かれていない内容も含まれています

計画は「現状と課題」から始まります。原文はこうです。

学校が所在する県北部地域は、製造業の集積が進み、国の「産業立地プロジェクト」で半導体重要地域の指定を受けているが、高校生の半導体への認知度の向上が課題

世界有数の半導体集積地にありながら、その足元の高校生に半導体が届いていない。この認識が計画全体の出発点になっています。めざす姿は「本科から専攻科への5年一貫の学びによる高度専門人材、学科横断的な学びの充実による即戦力ものづくり人材の双方を育成」。高度専門人材と即戦力人材の「双方」と書いているのがポイントで、どちらか一方に寄せていません。

柱① 5年一貫の教育プログラム──新学科「ものづくり創造工学科」の新設

1本目の柱に、県の報道発表には出てこない重要な項目があります。

  • 本科に「ものづくり創造工学科」を新設
  • 本科と専攻科を接続した5年一貫教育を軸に据えた工業教育プログラムの展開
  • 協力校から専攻科への進学特別枠の設置
  • 三重大学工学部進学や大学3年次編入等も見据えた教育課程の改編

「ものづくり創造工学科」の新設は、事業計画書にのみ記載されており、7月1日の県の報道発表では触れられていません。現行の全日制7学科(物質工学科、機械科、電子機械科、電気科、電子工学科、建築科、自動車科)への追加なのか、既存学科の再編なのか、定員や開設年度がどうなるのかは、現時点の公表資料からは読み取れません。四日市工業高校の先生にとっては、今後の校内議論で最も大きな論点になる部分です。

柱② 学科を越えた挑戦──「半導体探究」を全学科で学ぶ

  • 全学科で学ぶ科目「半導体探究」の新設
  • 地元企業や大学と連携し、半導体をテーマとし多様な切り口からの探究学習の実践
  • 全学科の生徒が互いに学び合うミックスホームルーム制の実施

いいなと思うのは「全学科で学ぶ」という設計です。半導体を電気系・電子系だけの話にせず、建築科や自動車科の生徒も学ぶ。先ほどの「高校生の半導体への認知度の向上が課題」という現状認識に、正面から応える形になっています。

ミックスホームルーム制も、工業高校では珍しい試みです。学科ごとに分かれるのが当たり前だった工業高校のホームルームを、学科横断で編成する。教育課程の話であると同時に、校内の学校運営そのものに手を入れる話であり、実務的な難度は決して低くありません。

柱③ 即戦力人材育成環境の整備──13.8億円の使い道

  • 製造現場と同水準の半導体ラボの新設
  • 数値制御工作機械、ロボット制御装置、3DCAD、VR実習装置等の更新
  • 成果発表やオンライン授業に対応した探究ルームの新設

13.8億円の大半は、おそらくここに投じられます。「製造現場と同水準」という表現が使われている点が重要で、教育用の簡易設備ではなく、実際の半導体製造現場に近い環境を校内につくるという意味になります。この点は後述する「3年後の維持費」の論点に直結します。

実践的な学びの場と、成果の普及・横展開

事業計画書には、上記3本の柱に加えて次の取組が明記されています。協力校の先生に直接関係するのはこの部分です。

区分 記載されている取組
実践的な学びの場の充実 地元企業・三重大学等と連携した半導体講座/外部人材を活用した資格取得支援、海外研修等/拠点校・協力校による合同インターンシップおよび地元企業エンジニアと連携した課題研究
成果の普及・横展開 工業科教員対象の工業教育研究会で年間指導計画や実践事例を共有/工業高校生フェア、ロボットコンテスト、産業教育フェア、みえ探究フォーラム等で成果発表/他校教員・生徒による施設利用、技術講習会の実施/小中学生向け体験講座を通じて、ものづくりや半導体への興味・関心を喚起
連携体制 産学官連携エコシステムの構築と「知の拠点」としての「ハブ機能」強化。高等教育機関(三重大学、鈴鹿高専)、地元企業、行政機関(三重県雇用経済部、教育委員会)、みえ半導体ネットワーク、協力校で構成
育成する人材 挑戦する心、協働する力、課題解決力、DXの素養を備えたアドバンスト・エッセンシャルワーカー/専門技術を身に付け、地域産業を支える即戦力のものづくり人材/専攻科・大学等で半導体の学びを深める高度専門人材
出典:三重県「事業計画書(四日市工業)」より作成

なぜ四日市なのか──数字で見る地域の産業集積

「半導体で日本の未来を切り拓く」という事業計画名は、実はそれほど大げさでもありません。数字で見てみます。

電子部品・デバイスの出荷額は20年連続で全国1位

三重県の電子部品・デバイス・電子回路の製造品出荷額は1兆7,858億円(2023年)で全国1位、全国シェアは約10%にのぼります。しかもこれは単年の話ではなく、20年連続でのトップです(出典:三重県「三重の半導体産業 わかる!」、原データは総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査」)。

また令和5年3月には、国の「産業立地プロジェクト」で三重県が半導体重要地域に指定されています。事業計画書の「現状と課題」が引用しているのは、この指定です。

キオクシア四日市工場と「世界のフラッシュメモリの3分の1」

項目 内容
所在地 四日市市山之一色町800番地
設立 1992年1月
敷地面積 694,000㎡(駐車場を除く)
従業員数 6,788名(2026年3月31日現在)
主な生産品目 半導体メモリ製品(BiCS FLASH™、NAND型フラッシュメモリなど)
出典:キオクシア株式会社「四日市工場の概要」

キオクシアとサンディスクを合わせると、世界で使われるフラッシュメモリの約3分の1が四日市製です。加えて四日市コンビナートには、半導体フォトレジストで世界トップシェアを持つJSR四日市工場をはじめとする化学産業が集積しています。桑名市には車載パワー半導体のユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(UMC傘下の300mmファウンドリ)があり、これは協力校である桑名工業高校の地元です。

ところが「みえ半導体ネットワーク」に、高校は1校も入っていなかった

ここが、この採択のいちばん面白いところだと思っています。

三重県には「みえ半導体ネットワーク」という枠組みがあります。令和5年3月に中部地方で初めて設立され、半導体人材の育成・確保を強力に推進することを目的としています。事務局は三重県雇用経済部。構成団体は54団体(令和8年3月26日現在)で、企業約40社、教育機関4機関、金融機関1、行政3(三重県・四日市市・桑名市)、オブザーバー1という内訳です。

この教育機関4機関の顔ぶれが、三重大学・鈴鹿工業高等専門学校・鳥羽商船高等専門学校・近畿大学工業高等専門学校。すなわち大学と高専だけで、高等学校は1校も入っていません(出典:三重県「みえ半導体ネットワーク 構成団体」)。四日市工業高校も、桑名工業高校も、四日市中央工業高校も、このネットワークのメンバーではないのです。

つまり三重県の半導体人材のパイプラインは、これまで「大学・高専」で完結しており、工業高校は制度的に接続されていませんでした。「高校生の半導体への認知度の向上が課題」という県の現状認識は、精神論ではなく、この構造の裏返しです。

今回のN-E.X.T.事業は、その空白に工業高校と専攻科を差し込む、三重県で初めての施策と位置づけられます。事業計画書の連携体制図に「みえ半導体ネットワーク」が明記されているのは、この接続を意図したものと読めます。

ただ、気になる点もあります。専攻科は、同じネットワークの中にいる高専3校と、半導体人材の獲得では競合する立場でもあります。「高校が入る」ことは、それ自体が新しい力学を生みます。

全国唯一の構造:「半導体×専攻科×5年一貫」

採択結果一覧の75件すべてを読み込むと、四日市工業高校の位置づけがはっきりします。

「半導体」を事業計画名に掲げたのは、全国75件中2件だけ

事業計画名に「半導体」の語を含むのは、岩手県立黒沢尻工業高等学校(地域の半導体人材養成に向けた産業DX教育の拠点形成)と三重県立四日市工業高等学校の2件のみです。半導体は国家戦略のテーマですが、高校教育改革の事業名として正面に掲げた県は、意外にも2つしかありません。

「専攻科」を対象に含むのも、全国75件中2件だけ

学科等の欄に専攻科が入っているのは、山梨県立甲府工業高等学校三重県立四日市工業高等学校の2件のみです。

そして、「半導体」と「専攻科」の両方を持つのは、全国で四日市工業高校ただ1校。事業計画名に「5年一貫」を掲げたのも本校だけです。ここが全国的な独自性です。

ただし13.8億円は、工業系22校のなかで21位

一方で、金額を横に並べると、別の顔が見えてきます。類型1に採択された工業系の先導校22校を上限額順に並べると、次のようになります。

順位 上限額 都道府県 先導校
1 39.0億円 和歌山県 和歌山工業高等学校
2 33.7億円 福井県 坂井高等学校
3 31.7億円 岐阜県 岐阜工業高等学校
4 29.3億円 岩手県 黒沢尻工業高等学校
5 28.4億円 滋賀県 彦根工業高等学校
6 27.5億円 栃木県 宇都宮工業高等学校
7 26.9億円 愛媛県 今治工業高等学校
8 25.6億円 福島県 福島工業高等学校
9 23.8億円 山梨県 甲府工業高等学校(専攻科)
10 23.7億円 石川県 小松工業高等学校
11 22.3億円 長野県 松本工業高等学校
12 21.5億円 千葉県 市川工業高等学校
13 20.2億円 埼玉県 熊谷工業高等学校
14 20.0億円 兵庫県 姫路工業高等学校
15 18.7億円 徳島県 徳島科学技術高等学校
16 18.2億円 岡山県 東岡山工業高等学校
17 16.6億円 熊本県 天草工業高等学校
18 16.5億円 広島県 広島工業高等学校
19 15.8億円 大分県 大分工業高等学校
20 15.0億円 山形県 新庄神室産業高等学校
21 13.8億円 三重県 四日市工業高等学校(専攻科)
22 9.0億円 静岡県 浜松工業高等学校
出典:文部科学省「採択結果一覧」より作成。22校の平均は約22.6億円、中央値は約22.3億円。

四日市工業高校の13.8億円は22校中21位で、平均の約6割にとどまります。上限額は事業計画の規模、とくに施設整備の量に連動します。本校の計画が半導体ラボの新設と工作機械の更新に絞った、比較的コンパクトな設計だからでしょう。上位の和歌山(39.0億円)や岐阜(31.7億円)は、大規模な学科再編と施設整備を伴う計画です。

岩手・黒沢尻工業(29.3億円)との比較で見えること

そこで気になるのが、同じ「半導体」を掲げた岩手県立黒沢尻工業高校です。

三重・四日市工業 岩手・黒沢尻工業
上限額 13.8億円(工業系21位) 29.3億円(工業系4位)=約2.1倍
学科等 全日制・定時制/工業科/専攻科 全日制/工業科
事業計画名 四日市から世界へ!半導体で日本の未来を切り拓く5年一貫の工業教育拠点 地域の半導体人材養成に向けた産業DX教育の拠点形成
地元のキオクシア拠点 四日市工場(6,788名、1992年設立の主力工場) 岩手・北上工場(2019年竣工の新拠点)
産業界との連携チャネル みえ半導体ネットワーク(ただし高校は不参加 いわて半導体関連産業集積促進協議会と連携

同じキオクシアの企業城下町でありながら、より大きく歴史も古い四日市の方が、後発の北上より事業規模が半分以下という逆転が起きています。産業集積の規模がそのまま計画の規模になっていない。この差の背景として、産学連携チャネルの成熟度——つまり岩手には高校が参加する協議会があり、三重のネットワークには高校が入っていなかったこと——が効いている可能性があります。

もっとも、三重県は令和6年7月12日に岩手県・大分県と半導体人材育成の三県連携協定を締結しています。お手本にできる先行事例は、案外すぐ近くにあるのかもしれません。

「5年一貫」は、高専とは別のしくみ

ここは、多くの解説記事が触れていない部分です。しかし四日市工業高校の計画の中核が「5年一貫」である以上、避けて通れません。結論から言うと、高校の専攻科は高等専門学校(高専)とは制度上まったく別物であり、「5年」という年数だけを見て同列に語ることはできません。

四日市工業高校「ものづくり創造専攻科」の基本情報

項目 内容
正式名称 ものづくり創造専攻科
設置 平成30(2018)年4月1日。県内3校目の専攻科、工業学科としては県内初
定員 20人(機械コース・電気コース 各10人程度)
修業年限 2年(高校卒業後に学ぶ2年制課程)
入学資格 高校・中等教育学校の卒業者/卒業見込者 ほか
選抜 一般選抜(出願8月末〜9月上旬、検査9月、発表9月下旬)+定員未充足時の再募集
協働パートナーズ 153企業・8団体(2026年5月13日時点)

高校専攻科と高専は、こう違う

高校+専攻科(四日市工業型) 高等専門学校(高専)
設置根拠 学校教育法第58条(高校の一部) 学校教育法第115条〜(独立した学校種
入学 中学卒業→高校→3年後に専攻科を改めて受験 中学卒業時に5年間へ一括入学
修業年限 3年+2年(接続は制度上自動ではない 5年
称号 なし 準学士(学校教育法第121条)
学位授与機構の「学士」 対象外 認定専攻科の修了で取得可
大学編入 第58条の2(修業年限2年以上+62単位以上の基準を満たす場合) 第122条で卒業者に一般的に付与

核心的な違いは「3年時点で一度切れる」ことです。高専は中学卒業から5年間そのまま進みますが、高校専攻科は本科3年を終えた時点で別途入学者選抜があります。四日市工業高校の事業計画が「本科と専攻科を接続した5年一貫」「協力校から専攻科への進学特別枠の設置」と書いているのは、まさにこの制度上の断絶を運用で埋めるという意味です。ここを理解すると、計画の狙いが正確に読めます。

大学3年次編入の法的根拠は「修業年限2年以上+62単位以上」

高校専攻科から大学への編入学は、平成28年4月に制度化されました。根拠は学校教育法第58条の2で、文部科学大臣の定める基準を満たす専攻科の修了者は大学に編入学できます。その基準は学校教育法施行規則第100条の2および平成28年文部科学省告示第63号により、全日制・定時制課程の場合「修業年限2年以上」かつ「62単位以上を修得」と定められています(出典:文部科学省「高等学校及び特別支援学校高等部の専攻科から大学への編入学制度について」)。

なお、しばしば混同されますが、「総授業時数1,700単位時間以上」は専修学校専門課程(専門学校)の編入要件であり、高校専攻科の基準ではありません。

「学士」も「準学士」も、高校専攻科では取得できない

ここは、生徒や保護者に説明するときにつまずきやすいところです。

  • 学位授与機構の「学士」:大学改革支援・学位授与機構の単位積み上げ型の学士は、短期大学・高等専門学校の認定専攻科の修了者等が対象です。高等学校の専攻科は対象に含まれません。学士を得るには、大学3年次編入を経て大学を卒業する必要があります。
  • 「準学士」:学校教育法第121条は「高等専門学校を卒業した者は、準学士と称することができる」と定めています。高校専攻科の修了者には付与されません

この点は、生徒・保護者への説明で誤解が生じやすいところです。「5年一貫だから高専と同じ」という説明は、制度上は成り立ちません。

専攻科の実績は、いまのところ「就職」

四日市工業高校の専攻科が公表している進路先の資料には、就職先24社が掲載されており、大学編入の項目がありません。文部科学省の「高等学校専攻科に関する実態調査」(平成24年度)でも、工業の専攻科修了者の進路は就職94.3%に対し、大学・短大はわずか1.0%でした。専攻科は制度上「高度就職コース」として機能してきた、というのが実態です。

だからこそ、事業計画書の「三重大学工学部進学や大学3年次編入等も見据えた教育課程の改編」という表現が効いてきます。これは「すでにある」ではなく「これからつくる」という宣言です。法制度上は可能でありながら、実際にはほとんど使われてこなかったルートを、この3年間で実装しようとしている。それがこの計画の挑戦的な部分です。

採択後の3年間で、現場に何が起きるのか

ここからは実務の話です。上位の解説記事のほとんどが「申請前」の視点で書かれており、採択後の話はほぼ空白になっています。

お金は、どこをどう流れるのか

N-E.X.T.ハイスクール構想の財源は、令和7年度補正予算 2,955億円(促進事業2,950億円+伴走支援事業5億円)です。「強い経済」を実現する総合経済対策(令和7年11月21日閣議決定)に基づき、各都道府県に基金が設置されます。補助率は10分の10(全額国費)、支援期間は3年程度です(出典:文部科学省「高等学校教育改革促進基金の創設」)。

実務のうえで押さえておきたいのは、次の3点です。

  • 申請主体は都道府県であり、学校ではありません。文部科学省の公募でも、様式は「申請書事業計画書(都道府県)」と「申請書事業計画書(各拠点)」に分かれています。日々の窓口は三重県教育委員会事務局 高校教育課になります。
  • 「上限額」は確定額ではありません。13.8億円はあくまで上限であり、実際の交付額は交付申請と実績に基づきます。
  • 交付要綱・管理運営要領は文部科学省「高等学校教育改革促進基金」のページで公開されています。最初に目を通しておきたいのは、対象経費の線引き、事業計画の変更手続き、実績報告の3点あたりでしょうか。

成果指標(KPI)をどう設計するか

採択結果一覧の「学力向上・学習支援」欄に、四日市工業高校は「大学や連携企業・民間教育機関等による学習支援の取組」と記載されています。これは3年後に成果を問われる項目です。

文部科学省が公表した他校の取組例では、たとえば北海道有朋高校が「受信校から大学の理系学部へ進学した生徒の割合 9.3%→30%(R10)→40%(R13)」という具体的な数値目標を掲げています。指標は「現状値→中間目標→長期目標」の3点セットで置くのが、国が示している型です。

四日市工業高校の場合、類型1・工業分野の性格から、候補として考えられるのは次のような指標です。

  • 本科から専攻科への進学率(=「5年一貫」が機能しているかの直接指標)
  • 協力校から専攻科への進学者数(=「進学特別枠」の実効性)
  • 専攻科修了者の大学3年次編入者数(=これまで1.0%だった全国水準に対する挑戦)
  • 「半導体探究」の履修者数と、半導体関連企業への就職者数
  • 半導体関連の資格取得者数、地元就職率

そのうえで効いてくるのが、「認知度の向上が課題」という現状認識に対応した指標を、事業開始の今のうちにベースライン込みで測っておくことだと思います。3年目に「向上した」と言うためには、1年目の数字が要りますから。

3年後、半導体ラボの維持費は誰が払うのか

ここは、どの解説記事もあまり触れていない話です。

国の補助は令和8年度から令和10年度までの3年間。この期間に「製造現場と同水準の半導体ラボ」を新設し、数値制御工作機械やロボット制御装置を更新します。では、令和11年度以降の保守費、消耗品費、更新費はどうなるのか。ここは、正直よく分かりません。

半導体関連の設備は、一般的な工業高校の実習設備と比べて、維持コストの水準が違います。クリーン環境の維持、消耗品、装置のメンテナンス契約、そして数年で陳腐化する装置の更新。3年間の国費で「入れる」ことはできても、その後10年「動かし続ける」財源は、この事業には含まれていません

ここに対する現実的な打ち手は、事業計画書のなかにすでに書かれています。「他校教員・生徒による施設利用、技術講習会の実施」「小中学生向け体験講座」「地元企業・三重大学等と連携した半導体講座」。ラボを四日市工業高校だけの設備にせず、地域の共有インフラとして位置づけられるかどうかが、事業終了後の存続を左右します。域内普及は、理念の話であると同時に、設備を生き残らせるための実務でもあります

で、これを誰が回すのか

13.8億円の事業と、新学科の設置と、全学科共通科目の新設と、ミックスホームルーム制の導入。これを既存の校務と並行して回すのが現場です。書き出してみると、なかなかの分量です。誰が担当するのか、加配はあるのか、事務職員とどう分担するのか。ベンダーの解説記事は「外部人材に任せましょう」で終わりますが、外部人材を選定し、契約し、成果を管理するのもまた校内の仕事です。

四日市工業高校には、専攻科の協働パートナーズ153企業・8団体という既存の資産があります。ゼロから連携先を探す学校とは、スタート地点が違います。この資産をどう事業に接続するかが、初年度の実務上の要になります。

協力校になった2校のこと

この事業で忘れられがちなのが、協力校の立場です。採択結果一覧には協力校一覧という6ページの別表があり、三重県の行にはこう書かれています。

先導校等名(学科名) 協力校名(学科)
三重県立四日市工業高等学校(工業) 桑名工業高等学校(工業)、四日市中央工業高等学校(工業)
出典:文部科学省「採択結果一覧」協力校一覧より

桑名工業高校・四日市中央工業高校の位置づけ

  • 三重県立桑名工業高等学校:桑名市。機械系(機械・材料技術科)/電気系(電気・電子科)で1学年160名。日本版デュアルシステムを2004年度に導入し、140社以上とパートナーシップ契約を結ぶなど、企業連携の実績があります。車載パワー半導体のユナイテッド・セミコンダクター・ジャパンの地元校でもあります。
  • 三重県立四日市中央工業高等学校:四日市市。機械科/設備システム科/電気科/化学工学科/都市工学科の5学科各40名、1学年200名。

この2校を合わせると年間360名の工業科生徒。事業計画書に明記された「協力校から専攻科への進学特別枠の設置」を踏まえると、この360名が、定員20名の専攻科にとっての新しい母集団になるという構図です。協力校は「お手伝い」ではなく、5年一貫モデルの入口として設計されています。

ただし「進学特別枠」は、令和10年度入学者選抜以降が現実的

少し気の早い話ですが、令和9年度の専攻科入学者選抜実施要項(令和8年5月13日公表)には、特別枠の記載がなく、定員も20人のままです。これは要項の公表が採択発表(7月1日)より前だったので当然ですが、逆に言えば特別枠が制度として動き出すのは令和10年度入学者選抜以降と見るのが自然です。協力校の進路指導としては、この時間軸を頭に入れておきたいところです。

協力校が具体的にやること

事業計画書から、協力校が関わる取組を抜き出すと次のとおりです。

  • 拠点校・協力校による合同インターンシップ
  • 地元企業エンジニアと連携した課題研究
  • 四日市工業高校の実習施設・設備のシェア(探究活動や課外活動等で協力校の生徒に実習施設・設備を開放)
  • 「半導体探究」のノウハウを協力校・他校へ展開するカリキュラムの普及
  • 海外研修(台湾)、半導体講座への参加

実務的には、時間割の調整、生徒の移動と引率、安全管理、費用負担という、地味だが避けられない論点が並びます。「施設を開放する」と一行で書かれた計画を、3校の年間計画に落とし込む作業が、初年度に必ず発生します。

四日市工業高校が積み上げてきたもの

最後に。この採択は、ある日突然降ってきたものではなさそうです。

時期 内容
平成30(2018)年4月 ものづくり創造専攻科を設置(工業学科としては県内初)
令和5(2023)年1月 第9回ものづくり日本大賞 文部科学大臣賞(青少年支援部門)を受賞。全国で本校と宮崎市立加納中学校の2校のみ
令和6年度 DXハイスクールに採択(三重県13校のうちの1校)
令和8年度 DXハイスクール半導体重点枠に採択。全国10校のうち継続3年目(京都府立工業と並ぶ最古参)
令和8年7月 N-E.X.T.ハイスクール構想の改革先導拠点に採択(13.8億円、令和8〜10年度)

興味深いのは、四日市工業高校がマイスター・ハイスクールでもSPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)でもないことです。専門高校の代表的な指定事業を経ずに、ものづくり日本大賞とDXハイスクールという別のルートで実績を積み上げ、今回に至っています。しかも協力校の桑名工業・四日市中央工業も、ともに令和6年度のDXハイスクール採択校。今回の協力校選定は、既存のDXコホートをほぼそのまま引き継いだ形になっています。

よくある質問(FAQ)

Q. 三重県のネクストハイスクール構想の拠点校は何校ですか?

A. 現時点では四日市工業高校の1校のみです。ただし三重県は「申請中の他の拠点校の取組は、今後の採択に向け検討・調整します」と公表しており、今後増える可能性があります。

Q. 13.8億円は学校が自由に使えるお金ですか?

A. いいえ。まず13.8億円は「上限額」であって確定額ではありません。また申請主体は三重県であり、基金は県に設置されます。学校が直接受け取って自由に使う性質のものではなく、事業計画に沿った経費を、交付要綱・管理運営要領の定めに従って執行します。補助率は10分の10(全額国費)です。

Q. 四日市工業高校の専攻科を修了すると「準学士」がもらえますか?

A. もらえません。準学士は学校教育法第121条により高等専門学校の卒業者に与えられる称号で、高校専攻科の修了者は対象外です。大学改革支援・学位授与機構による「学士」も、短期大学・高等専門学校の認定専攻科が対象であり、高校専攻科は含まれません。

Q. 専攻科から大学に編入できますか?

A. 制度上は可能です。学校教育法第58条の2に基づき、「修業年限2年以上」かつ「62単位以上修得」の基準を満たす専攻科の修了者は大学に編入学できます。ただし四日市工業高校の公表資料では専攻科の進路先は就職が中心で、事業計画書も「大学3年次編入等も見据えた教育課程の改編」という表現です。これから整備する段階と理解するのが正確です。

Q. 「ものづくり創造工学科」はいつできるのですか?

A. 事業計画書に「本科に『ものづくり創造工学科』を新設」と記載されていますが、開設年度・定員・既存7学科との関係は、現時点の公表資料からは確認できません。今後の三重県教育委員会の発表を待つ必要があります。

Q. 協力校の桑名工業・四日市中央工業は何をするのですか?

A. 事業計画書には、拠点校・協力校による合同インターンシップ、地元企業エンジニアと連携した課題研究、四日市工業高校の実習施設・設備の開放、「半導体探究」のカリキュラム普及、海外研修や半導体講座への参加が挙げられています。加えて「協力校から専攻科への進学特別枠の設置」が明記されており、5年一貫モデルの入口として位置づけられています。

Q. 事業が終わる令和11年度以降はどうなりますか?

A. 国の補助対象は令和8〜10年度の3年間です。それ以降の設備の保守費・更新費については、この事業には含まれていません。事業計画書にある「他校教員・生徒による施設利用」「小中学生向け体験講座」など、ラボを地域の共有インフラとして位置づける取組が、事業終了後の存続を左右すると考えられます。

まとめ

三重県のネクストハイスクール構想の拠点校は、四日市工業高校の1校。13.8億円、令和8〜10年度、類型1です。協力校は桑名工業高校と四日市中央工業高校の2校です。

この採択の意味を、3点に整理します。

  1. 構造は全国唯一。「半導体」と「専攻科」の両方を持つ先導校は全国で四日市工業高校だけ。事業計画名に「5年一貫」を掲げたのも本校のみです。
  2. 空白を埋める施策である。電子部品出荷額20年連続全国1位、世界のフラッシュメモリの3分の1を生む土地でありながら、みえ半導体ネットワーク54団体に高校は1校も入っていませんでした。この事業は、その空白に工業高校と専攻科を接続する、三重県で初めての試みです。
  3. 金額は大きくない。13.8億円は工業系22校中21位。同じキオクシアの企業城下町である岩手・黒沢尻工業は2.1倍の29.3億円です。産業集積の規模ではなく、産学連携チャネルの成熟度が計画の規模を決めた可能性があります。

そのうえで、現場が向き合うべき論点も明確です。高校専攻科は高専ではなく、学士も準学士も出ないこと。専攻科の実績は編入ではなく就職であり、大学編入ルートはこれからつくるものであること。そして3年後、半導体ラボを動かし続ける財源はこの事業に含まれていないこと。

どれも、この計画の弱点というわけではないと思います。先に分かっていれば、設計に織り込める話です。事業開始は令和8年度、つまり今年度です。ベースラインの数字を測るなら、今しかありません。

参考・出典

※本記事は2026年7月16日時点で公表されている資料に基づいて作成しています。事業の詳細は今後の三重県教育委員会および文部科学省の発表によって変わる可能性があります。

清水明夫

この記事を書いたのは…

LAMPS株式会社 取締役 清水明夫

1984年群馬県生まれ。早稲田大学教育学部在学中に、国内初となるシェアハウス運営会社を起業。2013年より地元群馬県に戻り地域活動を開始。2015年に高崎市議会議員選挙に初出馬、2位当選。2018年に開催した5000人規模の野外音楽フェスでは、一夜にして4000万円の負債を負い、うつ病に。多くの挑戦の中でたくさんの仲間ができ、2019年に出馬した2度目の選挙では、歴代最多候補者数の激戦の中トップ当選。2023年4月、後継候補を当選させた後、議員を引退。これまで13社の創業と3社の譲渡、400件ほどの事業開発に取り組んだ経験を活かし、現在は複数の会社経営、企業コンサルティング、まちづくり活動などに従事する。


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